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M&Aインタビュー

文原 明臣(株式会社nana music 代表取締役 社長CEO)

全て資金調達
収益化も遅らせる、とにかく面を取る
ある意味無知だからこそできた

なぜ起業家になろうと思ったのでしょうか?

起業前に遡ると、F1ドライバーを目指してずっとやってきたのですが、資金面や環境の都合上諦めなくてはならなくなったんですね。そして、自分の人生にはレースしかなかった状態だったので、急に目指すものがなくなってしまったんです。
2009年にレースを止めてからTwitterを始めたり、インターネットで様々なコンテンツに触れていく過程で、どんどん自分の中に新しい情報が増えていきました。そこで「スタートアップ」というものがあることを知って一気に興味を持ちました。

起業に至るきっかけとしては、2010年にハイチ沖地震がありましたよね。その時に『We Are The World 25 For Haiti』という有名アーティストによる名曲のチャリティー版が誕生したのですが、その”YouTube edition”として全員アマチュアの方々で歌われたものがあるというのをたまたま知りました。
それ見たときに、めちゃくちゃ素晴らしいなと思ったんです。『We Are The World』つまりは音楽を通じて、動画の中で世界中の人たちが国境という垣根をこえてコラボレーションしている。「音楽が世界を繋ぐ」「音楽で世界を一つに」というコンセプトに近づいているし、これがインターネットの力なのかと実感しました。
とはいえ、よく見てみるとこの中に日本人はいないし、数カ国の人しかいない。インターネットはこれだけの力を持っていて普及もしているのに、なぜまだまだ「音楽で世界を繋ぐ」ということが実現できていないんだろう、と思ったんですよね。

ちなみにレーサーになる前にも、独学ですが音楽をやっていたんです。スティービーワンダーが大好きで、彼のようにパワフルに、それもジャズバーで歌っているようなシンガーになりたいという目標の中で、ストリートで歌ったりしていました。その後スポーツの世界に飛び込んでいますが、結局今は音楽の事業を選んでるので、自分の中ではまたこの世界に戻ってきたっていう感覚です。
なので、起業家になりたかったわけではなく、まず作りたいものがあって、それを作るためにはチームが必要で、チームのために資金が必要で、資金を受けるために箱を作った、という流れで結果的に起業という形になりました。

「ビジネス」ありきで起業する人も多いですが、文原さんは「音楽を通して世界を繋ぐ」という志しがあって、プロダクトありきで起業に至ったということなんですね。

そうですね。当時、iPhone 3GSを買ったばかりだったのですが、一人でコブクロを歌って、それに合わせてハモるという寂しい遊びを一人でしていて(笑)
その中で自分の歌声を録ってクラウド上にあげて、そこに誰かが一緒に歌ってくれる、演奏した音を重ねてくれる、そんな仕組みが実現できたらどうだろうかと考えました。
世界中のあらゆる人がポケットからさっとスマホを取り出して世界に繋がるマイクになれば、本当の意味で「音楽で世界を繋ぐ」「世界中の人たちと一緒に『We Are The World』を歌う」ってことが実現できるんじゃないか、とアイデアが湧いてきました。
これはおもしろいと自分の中にも確信があって、F1ドライバーの夢を諦めて空っぽになっていたところにワクワクする感覚が戻ってきたんですよね。

自分にはプログラミングやデザインの経験はなかったので、まずはチーム作りからスタートしました。ただチームを作ったところで、皆さんに動いてもらうにはもちろんお金が必要だと。じゃあどうやってお金を調達するのか?というところで、基本的には借入か稼ぐか出資をしてもらうかになるかと思いますが、ちょうど時代的にもいろんなファンドが立ち上がっていたり、シード投資も活発になってきたタイミングでもあったので、とにかく応募しまくりました。

マネタイズには苦労してきたという記事を拝見しましたが。

基本的には全てにチャレンジし、世界に向けて最速でグローバルプロダクトを作って広げていくことだけを考えていたので、全て資金調達、収益化も遅らせる、とにかく面を取る。それが当たり前だとしか思っていませんでした。
ある意味無知だからこそできたのかもしれません。
プロダクトができる前段階での投資なので、出資してくださる方はモノではなく人にかけてくれているんだと思うんですね。世界中を音楽で繋いでいく、世界中の人が歌えるような環境・仕組みを作っていく、そのコンセプトはすごく面白いねと言っていただけて出資にも前向きになってもらえました。

ところが、2012月8月21日にリリースが実現したものの鳴かず飛ばずで数字も全然あがらなかった。最初の計画ではあと数ヶ月で資金が尽きてしまうので、各所を回ってお話をしましたが、全員がもう少し様子を見させて欲しいと、ころっと態度が変わってしまったんですね。結果、銀行残高は2万円、誰のお金も払えない、という状況になり1度キャッシュアウトしました。そこからは個人投資家の方たちに助けていただきつつ、ほぼ自転車操業のような状態が10ヶ月間ほど続いたのですが、その間にもきちんと数字は積み上がっていったという感じです。

ちなみに出資を受けられた時はイグジットについてどういう考え方をされていましたか?

当時はIPOの話しかしていませんでしたね。
ビジネス的に明確な理由があったわけではなく、自分たちでやっていきたいという独立性が自分の中でかなり重要でした。自分の性格によるところですよね。
とは言え第三者も入っているので出口は用意する必要がある、となるとIPOしかない、というくらいの考えでやっていました。

2017年、nana musicをDMM.comにバイアウトして話題になりましたが、IPOを目指していたところからバイアウトに至るまでにはどのような経緯があったのでしょうか?

一つはタイミングが大きいと思いますね。
実は当時、2017年2月には次の資金が尽きるので調達しなければいけないっていう状況だったんです。ただバリュエーションはかなりの金額になっていましたし、ビジネスモデルでいえばプレミアム会員が走り始めたものの、もっとプロダクトを磨いてアクティブユーザー数をスケールさせたかった。また、プロダクトを作りたくて始めたのに資金調達にほとんどの時間を取られているという葛藤もありました。

M&Aという選択肢に関しては何も考えていなかったのですが、ちょうどそのタイミング、2016年11月にDMM.comさんからの買収の提案がありました。お話をいただいてからはほぼ毎日のように片桐さんに会ってあらゆるお話をして、当然既存株主の方々にも相談をさせていただいたり、ものすごく悩みました。
その中で自分の決め手となったのは「何のためにやってるんだっけ」という原点でした。
IPOしかないと考えていたのはあくまでも個人的なプライドの話であって、自分のゴールは”nana”っていうサービスを広げたいんだよね、広げるためには一番何が近道で、何が最適なのか考えた方がいいのではないか、と考え直したんです。

もちろんこれからさらに資金調達をしていくという選択肢もありましたが、今回のオファーを受けることで一気にアクセルを踏めるようになり、プロダクトを磨くことに集中できる環境も作れる。資金に関しても短期的なマネタイズのことばかりを考えずに、nanaを広げていくことに集中できる環境、それがすぐ目の前にあるんだ、ということを考えた時に、DMM.comさんにジョインするのが一番近道だなというのが自分の中でも納得できました。

文原さんと同じように、資金調達や株主への説明にエネルギーが割かれてしまって本来やりたい仕事にフォーカスできない、という悩みを持っているスタートアップの経営者って多いんですよね。

そうなんですよね。最初から資金調達はCFOに任せて自分はプロダクトに集中できるという環境が作れればそれがもちろん最高ではあると思うのですが、そのためにはたとえばトラックレコードも必要だろうし、運も必要です。

僕は初めての起業なので、比較はできないですが、CFOの獲得を頑張ったり、もっとわかりやすいマネタイズモデルを考えたりしたけど、いわゆる金融的な意味で納得感のあるようなロジックに落とし込めなかったんですよね。もちろんこれは自身の未熟さでもあるのですが、それっぽいロジックを作ることはできても本質的では意味無いなという葛藤を抱えてしまい、振り返ればほとんどが個人エンジェルの方、もしくは事業会社、あとは起業家よりのVCの方々に出資頂いていました。
ロジックよりも、積み上がってきている数字と実現しようとしている世界、そこがおもしろいから出資するよって言ってくれる人がほとんどだったなと思います。なので仮にCFO的な人がいても、資金調達を完全に任せられるかといったらそうではなかっただろうなと思いますね。

これまで独立性を重視していたところからDMM.comグループにジョインして、良かった部分や不自由な部分などはありましたか?

今回のM&Aについてはすごくいい選択をしたと思っています。
もちろんプロダクトにも集中できますし、トラックレコードが積まれるので信用も変わってきますよね。情報も集まって繋がりも増えたり、選択肢がかなり増えたという意味で非常にいい選択だったなと思います。課題ももちろんいっぱいあるんですけど、本質的な課題にしっかり向き合える環境ができたのがものすごくありがたいです。

苦労している点は、ジョインした当初は指揮系統において自分の上がいることに慣れませんでした。これまでも当然株主の方々と進捗共有や議論は行ってきましたが基本的には全て一任されていますよね。ですが子会社の代表という形になると、少なくともこれまでの認識よりかは細かいことに対しての共有が必要で、その意識が自分の中に無かったんですよね。そこで共有が遅れたりして「なんで言わないといけないの」みたいな気持ちになってしまうこともあって(笑)
それでもDMM.comは未上場のおかげかものすごいカジュアルですし、よく考えたらこれまで株主の方々に対して報告をしてきたこととやるべきことは何ら変わらないよな、と自分の中にすとんと落ちてきてからは気にならなくなりました。ちっちぇえなオレ、と(笑)

「選択肢が増えた」ということですが、具体的にどういう選択肢が生まれましたか?

例えば、今までは出資していただく立場でしたが、逆に「出資してください」という話がくるようになりました。そうなると、株主として関わることになるのでこれまで以上に密度の高い情報が入ってきて自分にとっても役立ちますよね。

トラックレコードを積んで信用が上がったという部分で言えば、たとえば今後また新しい事業を立ち上げたいと思った時の資金調達は昔に比べると容易だろうな、と。また、この社会でチャレンジし続けている人達との交友関係も広がりましたし、そういった既存の友人達との関係性も非常に濃くなりました。たとえば今彼らと一緒に仕事をしているわけではなくても、何か一緒に作ろうとなった時、自分自身がしっかりコミットすればすぐにできる環境にありますし、nana musicをスタートさせた8年前と比べると実社会において自分ができること、作れるものが圧倒的に増えているなという実感がありますね。

音楽は共感、そして共感が資本を生み出す
でも全然サステイナブルじゃない

文原さんご自身のこれまでの経験の中で、スタートアップの経営者たちにアドバイス的にお話しするとすればどんなことがありますか?

起業家のタイプにもよりますが、そもそも起業がしたくて始めた方、プロダクトを作りたくて始めた方などいろんなパターンがありますよね。そういう意味で言うと僕はクリエイタータイプだと思うんですね。収益を最大化するためには何を作ればいいかという考え方ではなくて、作りたいものが先にあって、それを作るためにお金を何とかするっていう考え方。
そういうタイプの人たちには、とにかくビジネスが好きで、組織・人を見ることができる信頼できる人を、一人でいいので共同代表や共同創業者レベルで持っておいた方がいいと思っています。

一昨年からうちにジョインしてくれてるCOO、彼は元ユーザーなので対サービスへの感覚にもズレがないですし、且つ組織をマネジメントする、みんなをモチベートしてチームで物事を成していくことが得意なんです。僕はプロダクトにしか興味がないので(笑)、そこは役割分担といいますか、お互いが持っている得意分野が違うのでいいチームになっているんですよね。
クリエイタータイプの人は、基本的に人や組織に気がまわらなくて、ただプロダクトをよくしたいって考える。お客さんと作り手側っていう分断はできるんだけど、チームは同じ作り手側になるので妥協が許せなくて求めすぎる。

例えば自分でやった方が早いじゃんっていう時ってありますよね。でも誰の言葉か忘れてしまったんですが「早くやりたければ一人でやれ、遠くまでいきたければみんなでやれ」みたいな言葉があって、本当にその通りだなと。チームとしてきちんとワークしていこうっていう仕組みは馴染むのにも時間がかかりますし、逆にここで焦ってしまうと現場が混乱するだけなんだっていうのを実は僕も学んでいる最中なんです。なので、そういうことが得意な人とチームを作るっていうのは意識した方がいいと思っています。

今後のビジョンについてはどのように考えておられますか?

今回DMM.comグループにジョインしたこともnanaを広げていくためですが、nana musicでやりたいことが明確にいくつかあるので、それを作っていきたい、その世界を実現していきたいというのが僕にとって最優先です。自分の事業に集中して広げていきたいと思っています。
事業的には次のプロダクトももちろん作っています。音楽は共感、そして共感が資本を生み出すと僕は考えているのですが、実はこれって全然サステイナブルじゃないんです。なので継続性を持ち合わせた仕組みを作れないかと考えています。
例えば『We Are The World』がリリースされたのは1985年3月なのですが、毎年3月になると「We Are The Worldキャンペーン」があって、そこで少額でもいいので共感型資本、収益を集める。その資本がまたファンドの元手となって、向こう20、30年見なくてはいけないようなソーシャルスタートアップだったり、そういう人たちの力になる。

いわゆる音楽で世界を良くするって色々と語られていますけど、ほとんどが音楽の力を過信しすぎだなと思っているんです。もしこういう仕組みができたのであれば、本当の意味で音楽で世界をより良くしていくことができると思っているので、そのためにもちゃんと自社で収益化して、今後こういった仕組みをしっかり形作りたいというのが目の前に見えている一つのゴールですね。

文原 明臣 プロフィール

1985年神戸生まれ。神戸高専在学中にF1レーサーを志し、モータスポーツの世界に飛び込むものの、あと僅かのところで手に届かず挫折。その後様々な経験を積み、2012年に音楽を通じたコミュニティサービス”nana”を構想し起業。サービスをさらに広げるため、2017年にnana musicをDMM.comにバイアウトし、グループにジョイン。現在に至る。