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M&Aインタビュー

薮本 直樹(株式会社サムシングファン 代表取締役)

設立10年目でクリエイター全員が退職、そこから経営者とクリエイターが一緒に会社の成長を目指す組織へ

株の売却という意思決定をしたきっかけ、経緯は何だったのでしょうか?

もともとは動画の制作会社としてスタートしたのですが、とにかく一番悩んだのがクリエイターのマネジメントでした。動画制作会社の起業ハードルも参入障壁も低くなってきて、発注側としては安い、早い、そしてセンスの良いクリエイターに頼むのが市場の原理として当然だろうと思った時に、このまま規模を大きくするのか、それとも何か新しいサービスを始めるのか、いずれにしても会社として成長しないと生き残れないという危機感がずっとあったんですね。

ただそれをクリエイターにいくら伝えても、彼らは会社を成長することにコミットするというよりかは、自分がいかにクリエイティブな環境で刺激を受けてより良い作品を作れるかどうか、そこに価値を感じて会社に入っているので、会社自体の成長とか事業計画等には基本的には関心が無いんですよね。

クリエイターからは「社長の言っていることは正しいけれども、僕らはそういう会社で働きたくない」「もっとのびのびとクリエイティブなことをやりたい」「そもそも、もっと大きな案件のある会社で働きたい」「自分たちで会社を成長させることに意味を感じない」と。

そういう話があった中で、10年目の時に全員退職するっていうハードシングスがあったんです。

普通だったらそこで一回反省すると思うんですが、ここからまたしっかりエントリーマネジメントをやれば、動画活用の市場に挑戦できるような会社ができるんじゃないかと思って全く反省せずに人を入れてしまったんですね。そしたらやはり同じようなことが起こり始めて、もしかしたら自分が悪いのかなと、クリエイティブ業界の会社経営やクリエイターたちのビジョンや望みに、あまりにも理解が足りてなかったんじゃないかと考えを改めました。

「トラスト&リスペクト」という言葉がありますが、クリエイターに対して尊敬の念は持っていたけど一緒に働く仲間、会社を共にやる人として信頼はしてなかった。いつ辞めてしまうかわからない、クリエイターというのはより良いクリエイティブ環境があったらすぐそこに移ってしまうものだとどこかで信用していなくて、こういう考えが見透かされてたんじゃないかと思ったんですよね。

全員退職というハードシングスの後はどのように立て直したのでしょうか?

EOの月例会にゲスト参加した際に、起業家6~12人が小さい単位で、守秘義務を持ちながらお互い示唆や意見をせず、それぞれが思ってることや経験を全て出し切る「フォーラム」という場を毎月実施しているというのを聞いて、完全に見様見真似で社内でやり始めたんです。

クリエイターメンバー3人に声をかけて、僕は経営者としてこんなことを悩んでたり葛藤がある、当時はプライベートカンパニーだったので会社を解散して、自分自身はキャッシュを持ったままコンサルティングやマーケティングの担当者として企業と契約をして働こうかなということを真剣に悩んでいる。そういったことも隠さずにメンバーに考えを話して、クリエイターからもそれぞれの夢とか葛藤とか、思いを出し合ってもらう。お互い示唆をせず単に気づきだけを持ち帰る、そういった取り組みを社内で始めたら3,4か月で業績にもインパクトが出始め、尊敬と信頼が無いと会社というのは成長を一緒に目指すことができないんだなということに気づきました。

そこから、サムシングファンという会社は何のためにあるのか、ということをメンバーで話し合いました。会社というのは顧客も経営者も従業員も従業員の家族も、株主も市場も、サムシングファンがあることで幸せになる人を生み出すことができるというツールなんだと。僕らクリエイティブの業界の人間は道具というものをすごく大事にしますので、それと同じで会社も大事にして成長しブランドに育て上げていく必要があるよねという結論が出て、ここで初めて会社というものに対する共通言語がクリエイターと起業家との間に生まれてたんです。

そしてサムシングファンという会社はパブリック思考なので、いち早く成功するために動画活用という市場創造に力点を置き、できるだけ多くのリソースを費やすために内部統制や経理業務の効率化、様々な法令遵守などは外から仕入れてハンズオンしようということで、上場企業との事業資本提携を考え始めた、というのがこれまでの経緯です。

ウィルグループには株の一部を売却されたんですよね?

株式の51%を売却して、支配権自体をウィルグループに渡しているという状況です。創業して12、3年目で売上1億5千万円くらいの時に売却しました。

2016年当時自らIPOするのか、それとも上場企業の中に入るのか、これは両方選択肢として考えていました。もちろん10、20%の小資本いれていただくという選択肢もあったと思うのですが、できれば非常に重要なポジションでうちの会社を認識していただきたいということ、そしてハンズオンを全力でやっていただきたいという思いがあったので、51%という数字をこちらから提示をしました。

売却先にウィルグループを選んだ理由は?

事業シナジーが高い業界の会社さんからも複数社オファーをいただきましたが、色々な方の経験を聞いていた中で自分の中で決めていた条件というのがいくつかありました。

まず、サムシングファンは企業としてやっていきたいという思いがあったので既に相手が上場企業であること、そして誰と握ればいいのかが明確になっていることが重要だと思っていたので創業者が現役で大きな影響力を持っていること、自分が40歳になる手前くらいでしたので40代の創業者であること、まずはドメスティックで事業を伸ばすことを決めていたので、その後グローバルに展開する際に、既にその下地のあるグローバルに投資を展開していく会社であること。最後に、私たちのプロダクトにおいてはエンジニアリングが非常に重要だったので開発人材が社内にいること、こういった条件とマッチしたことが最大の理由です。

ディールの際のコミットメントについても、独自に市場創造を目指したいという意思表示をしていました。そこは応援しますというお話もいただいて、実際経営の独立性を守っていただける環境下で支援してもらっています。もちろん成長自体がコミットメントだと思っていますが、その手段についてはサムシングファンの方で決めてくださいというのが一貫したメッセージでした。

自分が会社の意思決定に全く関係のない立場になって、はじめて「創業者」になれる

どんな起業家が薮本さんのようなディールに向いていると思われますか?

一言で言うと「パブリック思考」に行きつくのですが、例えば一定の株式保有をしたいとか、100%の決定権とか100%の保有、そういうものにこだわらず会社というものの価値をどれだけ360度の人たちに使ってもらえるか、その志向性がある人は非常に向いているディールだと思います。50%以上を自分が持っているというのは本当の意味でのパブリックの在り方とは違うと思うので、そこにこだわるかどうか、そして自分自身がいつまで会社に対してメインで決定権を持ち続けたいか、そこの考え次第かなと。

自分自身は会社を作った時から、いつか自分が会社の意思決定に全く関係のない立場になってこそ、ようやく創業者、会社を起業したと言えるのではないかと考えていたので、最初から会社を売却するとか、仮に自分に不慮の事故があったとしてどの企業でもこの会社を引き取りたいと思ってもらえるような、そういう発想で会社経営をしてきたので、プライベート思考なのかパブリック思考なのかによって変わってくると思います。

ここから市場創造を目指されると思うのですが、目指す姿はありますか?

僕らは動画に特化してコミュニケーションを変えていこうとしていますが、現状できていない部分も多いと感じています。例えば、Webサイトに動画を載せてもっと問い合わせを増やしたいと思った時に、コンテンツの提供はできるし、このメディアにはこのコンテンツが良いですよ、といった提案はできるけれども、そもそものメディアの改善まではできていない。

企業のコミュニケーションを改善する上で、メディアに強い会社、文脈作りに強い会社、もしくはブランドや、そもそも発信する内容を強めないといけない場合も出てきますよね。そうなったときに、自社だけではできないと思ったらM&Aなどの手段で一緒にやってもらえる仲間を見つけて買収していくとか、そういうイメージはしています。

薮本 直樹 プロフィール

1976年大阪生まれ。 司会・ナレーターなどの仕事に携わる中、映像メディアに出会い、その可能性に魅せられ2003年に代表取締役として株式会社サムシングファンを設立。経営的視点からの動画活用を早くから提案し、「顧客創造」「人材育成」に繋がる「企画」「映像制作」を数多く手がける。2016年東証一部上場ウィルグループへ株式の一部を売却。